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東京高等裁判所 昭和34年(ラ)635号 決定 1960年1月18日

抗告人 株式会社茨城相互銀行 代表者 大内竹之助

主文

原決定をとりけす。

本件を宇都宮地方裁判所へさしもどす。

理由

抗告の趣旨および理由は別紙抗告状(うつし)にしるすとおりである。

よつて案ずるに、民事訴訟法第六四五条は、すでに競売手続開始の決定のなされた不動産について、競売法による競売の申立がなされた場合に準用あるものと解するを相当とするが故に、同条第二項によつて執行記録に添付することにより配当要求の効力を生じた抵当権者は、滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律(以下たんに法と略称する)第一七条によつて準用せられる第八条にいわゆる執行力ある正本により配当を要求する債権者として執行裁判所に強制執行続行の決定を申請することができるものといわなければならない。記録によれば、抗告人は本件不動産に対して、宇都宮地方法務局壬生出張所昭和二六年一二月七日受付第一六七〇号で登記せられた抵当権を有し、昭和三三年六月二一日宇都宮地方裁判所栃木支部に対し抵当権実行による競売の申立(同裁判所昭和三三年(ケ)第八号)をなしたところ、みぎ物件については、すでに昭和三二年五月一三日同支部において、債権者訴外栃木マツダ販売株式会社の申立により強制競売開始決定がなされていたため、抗告人のみぎ申立は前記執行記録に添付せられた、他方、本件物件については税金滞納処分の実行として昭和二八年一〇月二九日前記出張所受付第二〇三二号を以つて大蔵省のため差押の登記がなされていること明かであるから、抗告人は前記示すところにより強制執行続行の申請をなしうべく、執行裁判所は所定の要件具備するにおいては強制執行続行の決定をしなければならない。

抗告人の申請を却下した原決定は失当であるからこれをとりけすべく、抗告人の申請の当否についてさらに審理をつくさしめるために、本件を宇都宮地方裁判所へさしもどすこととし、主文のとおり決定した。

(裁判長判事 牧野威夫 判事 谷口茂栄 判事 満田文彦)

抗告の趣旨および理由

原決定はこれを取消す。

抗告人からなした強制執行続行の決定申請は理由がある。

との決定を求める。

一、前記不動産強制競売事件の当事者の表示は次の通り。

債権者 栃木マツダ販売株式会社

債務者 坂本儀貞

第二競売申立債権者 株式会社茨城相互銀行(抗告人)

二、抗告人は右強制競売事件の目的である不動産に対して宇都宮地方法務局壬生出張所昭和二六年一二月七日受付第一六七〇号登記の抵当権を有して居るところ、昭和三三年六月二一日右抵当権の実行として競売を申立て(右裁判所昭和三三年(ケ)第八号事件)たが、民事訴訟法第六四五条の準用により右強制競売事件執行記録に添付することにより配当要求の効力を生じ、若し強制競売事件の競売手続が取消となつたときは、その競売手続は第二の申立である抗告人申立の抵当権実行の為にその侭続行すべきものである。

三、右不動産については昭和二八年一〇月二九日国税滞納処分として栃木税務署によつて差押えをせられているが、僅少額の滞納額で他に徴税の方法があるべき筈であるに拘らず、その手段をとらないのみか、差押以来全然公売を実施していない。

四、そこで抗告人は文書で催告或は抗告人方行員を出張せしめ差押の解除又は公売の促進を要望したが、依然これ等の実現がないので、続行決定の申請をしたものである。

五、然るに右裁判所は右申請に対し原決定表示の決定をなし、その理由として(原決定正本にはその理由の記載はないが、昭和三四年八月一九日抗告人方管理課長森田清の電話照会による回答)庁用の民事裁判資料六二号五八頁記載「滞納処分による差押後に強制競売開始の決定がされた不動産に対しその後、更に行う競売法による競売については、本条の適用はなく記録添付に関する規定が準用される」を引例して抗告人は本件続行決定申請をする資格を欠くとのことである。

六、右資料記載の趣旨は滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律(以下調整法と略する)第一二条に規定するに拘らず、同一の不動につき二重の競売手続を開始することを無用とし、民事訴訟法第六四五条の記録添付に関する規定を準用するという趣旨に外ならず、又右民訴法条文によつて抗告人の同庁昭和三三年(ケ)第八号事件に基く申立は、同庁昭和三三年(ヌ)第六号事件の記録に添付することにより配当要求の効力を生じておるのであるから調整法第八条続行決定の申請をなし得る執行力ある正本により配当を要求する債権者とその資格に於て何等異なるところがないことからして本件読行決定申請を却下したことは法の解釈を誤つたものというべきであり到底承服出来ない。

七、調整法制定の目的は私債権の実行の円滑化を計り併せて租税等公債権徴収の合理化に資するため両者の執行手続の調整措置を講ずるにあるのであり抗告人の権利の実現は現状の侭では殆んど不可能に近い。よつて本件抗告に及ぶ次第である。

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